光入力/失敗

大気がない

出席番号8

床を踏み抜いて
しまったから
落ちないように
歩く
気をつけて
いれば
それでいいんだ
だって
もう
前には進まないから
壁に凭れて
だらんと
垂れた
うで

よくできました

地球儀を回して
それでいて
退屈な
休日

黃、黃、青、赤、赤

車を見送る
車内の恋人であろう男女
幸せだね
そして、海岸へ
夜の海に影
月明かりを遮って
浮かぶんだ

 知らないだろうけど
 きみがいない間に
 水死人が浜辺に
 打ち上げられていたよ

 服装からすると
 若い男女かな
 顔、見覚えある?

ありません

眠れない夜なんて
馬鹿みたいだ
はさみを不器用に
使っている手
きらい

学校へ行く
途中、
かわいい犬に出くわして
それで
気づいたら夕暮れ
これって片思い?
ぼくは何も知らない
知りたくもない

永遠に走りつづける
電車に乗って
一冊の本を何度も読む
飽きたら
眠る
起きてまた読む

すれ違いざま
ぼくのことを笑った
ひとがいる
その笑顔が忘れられず
こわくなる

こんなことが
これからも
つづいて
いくんだなんて
考えて
馬鹿みたいに
眠れずにいる

ぼくのなかに家がある
そこではどこかの家族が
犬といっしょに暮らしている
ぼくの気のせいでなければ
たった今、犬が亡くなった

ひとつの箱へ
ぼくはぼくを捨てる

拾ってください。

どこかの家族へ
拾われる

家のなか
しんだはずの犬がいる
かなしいことに
どうやらぼくは
かわりの犬であるらしい

朝、餌もられた皿かたずけて
ふくらんだ腹でまた眠る
起きて床なめる
吠える

家族きえた
餌だけ残してきえた

ぼくはぼくのために
かわりの家族
拾ってくる

フィクション

住宅街をゆく
ひとの声がない
かわりにきこえてくる
調律狂いのピアノ
割れたリコーダー

あかぎれのゆび奏でる
鍵盤たたく少女は少女のなかで
画面に見切れた自分の姿を見つめる
あれたくちびる奏でる
神経質なほそいゆび動かし
吐息もれる少年は少年のなかで
画面いっぱいの自分の鼻を見つめる

撮影した街の日常

住宅からきえたひとを追って
ぼくはあたえられた役を演じる
台本から台本へ投げかける言葉ひとつ
一字一句誤りはなかった
乱れた呼吸をさいごに
おつかれさま

だれもさよならを知らない

ところできみ、
抜け落ちた音声を
拾ってきてくれないか
映像は問題ない
ただ、音が不自然だから
もっといきものが嘘をついて、
生活をしていると錯覚するくらいに、
あと、光の調整を怠るな
影が実体に憧れると面倒だ

ここが終着
そして、はじまり
整列した墓石を俯瞰する
壁に囲まれたひとつの街
鳥類は退化する
翼を腕に還元(諸説あり)
では、人類はどうする?
とりあえずまあるく、
まあるく、
ころがる、
回転して、

踏みつぶされた

おまえの日常
どうかしてるよ

リリカル・プラザ

自分がどうして薬を処方されているのかわか
らなくなるときがある。わたしは健康だった
し、いつも笑っていた。わたしがわたしであ
る以上、他人がいてもおかしくはない。でも、
対人ってこわいよね。接客っていつも丁寧だ
けど、そんなことありえなくて、厨房で泣い
ているよ。陽気な帰り道、家に着いてしっか
りと傷ついて、お風呂に入れない日が何日か
つづいた頃、わたしはわたしでなくなってい
た。湯船の底でわたしの体温と同じひとに出
会う。みずいろの球体が胸のあたりで堰き止
められて、部屋のなか浮かぶ身体。誰も知ら
ないわたしだけの音、みんな叫んでいる、わ
たしを実験台にしたあの子も、教科書を貸し
てくれたあの子も、わたしになんの関係があ
るのだろう。

あなたはわたし以上に、
わたしのことを考えない
わたしは一喜一憂するけれど、
あなたは何も知らずにしんでゆく
何もかも迷惑だ、わたしみたいなひとを
ヒガイモウソウって呼ぶんだよ
どうしてひとを憎めますか
どうしてひとを恨めますか
傷つけるならまず、自我を壊せよ
刃物握りしめた部屋
多幸感にみちた
わたしの脳味噌には
あながあいている
ふざけた子供や紫色の蝶が
くぐり抜ける度に
額に汗が滲む

すべては夢のなか。でも、わたし不思議なこ
とに全部記憶している。何度か怒鳴る、泣き
喚くを繰り返して、驚くほど冷静な教室のな
か、ちょっと距離をとるやさしさが欲しかっ
た。あなたはわたしかもしれないし、わたし
はあなたかもしれない。あなたはカガイシャ
ですから、わたしはあなたを憎むことができ
る。鏡にうつるわたし、あなたに似てきた気
がする。

きいたこともない声で怒鳴るわたし
きっと夢のなかでは笑っている
笑いながら教室の隅で、
あなたがゆっくり
しんでいくのを
見ている

リズム・ゲーム

うきあがる壁紙のなか
ポップソングばかり聴こえてくる
すこしかなしくなって、
床に横たえた身体を起こす

排水溝へ流した飲料水は
ひかりよりも透き通っていた
蹴り飛ばした空き缶を追いかけ
ひとり帰り道をゆく
あらゆることを回想して、
一枚の絵を見つめる
空白が好き。

ぼくのなかでしんだひと

うそをついている
うそにうそをかさねて
肉、浮かぶ朝焼けの海
島という島を漂流した

くらやみは、
瞼の内側にしかない
ひかり射す窓の、あかるい声、
あくびのためにひらかれるくち
本棚は隙間を効率よく埋めるもの
空白へ伸ばされる無数の腕

はやく帰ろう

すべての記憶から
ぼくがきえるとき
夕暮れの街から
空き缶の音が谺する

リズム・ゲームに似た
歯ぎしりにあわせて打たれる手拍子
夜、影をぬりたくる顔、顔、顔、

歌っている

失敗

現実にいる
絵のなかから消えた人
思い出せないまま
痩せるくらい顔
わざと転びそうなふりをして
どうして笑ったのかわからなくなる

不確かな相槌を打つ
ぼくはもう何もしない
他人に厳しく接することと
いつも優しく接することの
両極端はもうたくさん

お化け屋敷はこわい。
だからもうこわくない、
ぼくは話を聞かない
送風機を下から持って、
ぜんぶ吹き飛ばしたら
お湯のなかで
あらゆる疲れを思い出す

密室と密室の関係
気泡と気泡の関係
細胞と細胞の関係

しくみを教わる、再び手であらわす
手が好きで、よく見た、その指毛

砂浜と家族を描く
白い紙へ塗り潰された肉色
ぼくの知る家族は
砂浜でした

入力/

声は音の波
ふるえながら
軸がぶれるんだ
強くなりなさい、本当にそう思う。
あらゆることを
朝までに忘れることで
歯を磨くことができる
ぼくの正面に佇む人影
やめてくれない

べたつく靴下を気にするほど
あしたが嫌いなわけじゃない
数字上の会話をかき消して
大きなくしゃみをした、その音。
ぼくが深刻になると
よくない顔、それはよくない顔

食べ物以外のものが胃を膨らませる
空気はくすぐったくて、苦しくて、
失神したように眠る顔
きれいな臓器でした
笑顔についての説明は
ちっとも嬉しくない

(でも、人前で笑うとき)
どうしたって言葉が出ない
楽しければ笑えばいいし
腹が立ったら怒ればいい

意味もなく走れ
わかった、そうしてみる
きみいくつ?あしはやい?
何も答えられずに泣いている
ぼくの弁当箱には
食べられないものばかり
詰められている